「食べるのがもったいない」。そう感じるほど、和菓子の色彩、デザインは美しい。でも、見て、味わうだけも、もったいない。菓子の名の由来を知ることで、「聴く楽しみ」も増える。
 日本人はいつからおやつを求めていたのか。縄文時代には既にクッキーのようなものを食べていたことが分かっている。栗などの木の実を砕いて熱を加えたものだという。「菓子」という言葉は、もともと木の実や果物を指していた。
 『古事記』や『日本書紀』によると、垂仁天皇の名を受けた田道間守が中国から橘の木を持ち帰った。田道間守命を菓子神として祭る神社が各地にある。
 菓子は昔から特別な存在だったようだ。狂言には、砂糖が貴重だったことをうかがわせる「附子」という演目が。落語には「まんじゅうこわい」という噺がある。
 和菓子は発展の過程で、海外の影響を強く受けている。遣唐使は油で揚げるという調理法を伝え、中国で学んだ禅僧は喫茶と点心(間食)という習慣を広めた。大量の砂糖と玉子を使う「南蛮菓子」は和菓子の流れを大きく変えた。
 そして江戸時代の元禄期、いまに通じる和菓子が京都で誕生する。従来との大きな違いは、優美な色づかいと、「菓銘」と呼ばれる菓子の名前の存在だ。

朝日新聞2014年3月31日〜はじめての和菓子 おもてなし「見」「味」「聴」で感じる(高橋昌宏氏による)〜より内容の一部を紹介しました