岩手では宮古市など沿岸地方でくるみ雑煮を食べる。JA新いわて女性部都中央支部の女性たちに作ってもらった。くるみをカナヅチで割り、殻から実を竹串で取り出し、すり鉢ですり、砂糖や水を加えて乳白色にとろりとなるまでのばす。(略)岩手にはくるみ豆腐やくるみあえなどの郷土料理が多い。宮古市の縄文時代の崎山貝塚からは4千〜5千年ほど前のくるみやドングリなどが発見されている。宮古の縄文人をくるみを食べながら初日の出を見たのか。
 香川では雑煮のお餅にあまいあんが入っている。(略)手製の粒あんをアツアツのお餅でくるんで丸めていく。輪切りにしたニンジンは日の出、大根は水鏡、青ノリは海を表す。赤い小豆は邪気を払い、白い豆腐には「白壁の蔵が立ちますように」という願いが込められている。「一年をマメに過ごせますようにと、実家では豆がらをおくどさん(竈)で燃やした火で雑煮をつくったものです」(高松市の國方貞子さん)(略)
 江戸時代、砂糖は「讃岐三白」と呼ばれる特産品の一つ。ぜいたくな献上品で庶民の口にはめったに入らなかった。「正月くらいは食べたいと願い、砂糖あんを餅に隠して雑煮に入れたのが始まりといわれています」と香川県観光協会。“甘い”はごちそう。新年にふさわしいハレの日の食べ物だった。

朝日新聞2012年12月25日夕刊〜ふるさとfood記「幸せクルミ一年マメに」(山根由起子・青山祥子両氏による)〜より紹介しました