イチゴやメロン、レモンも悪くないが、大人のかき氷といえば、小倉あんをトッピングした金時だ。さらに抹茶シロップをかけた宇治金時など、夏の最高の贅沢である。
 小倉あんの「小倉」が、京都嵯峨の小倉山に由来すると知って訪ねた。小倉百人一首の小倉だ。
 JR嵯峨野線「嵯峨嵐山駅」から徒歩20分。藤原定家が百首の和歌を選んだ小倉山荘跡の脇を通り、天台宗の名刹、小倉山二尊院にたどり着く。紅葉の寺として有名だが、緑の季節も清々しい。
 日本で最初に小豆と砂糖で餡が炊かれたのは、平安京ができて間もない820年頃のこと。小倉山に和三郎という菓子職人がいた。和三郎は、空海が中国から持ち帰った小豆の種子を栽培し、御所から賜った砂糖を加え、煮詰めて餡を作った。そしてその餡を毎年、御所に献上した。そもそも贅沢品だったのだ。これが「小倉あん」の事始めである。
 ちなみに二尊院には「小倉餡発祥之地」の石碑があり、年に一度の顕彰式では、参拝者に小倉あんのぜんざいが振る舞われている。

読売新聞2011年8月12日夕刊〜語源ハンター「小倉あん」 わぐりたかし(放送作家)〜より紹介しました