「塩漬けした桜葉の香りがゆかしい桜餅は、春の代表菓。江戸時代に江戸向島、隅田川堤近くの長命寺の門番が、周辺の桜の葉を利用して売り出したことに始まると伝えられる。この桜餅は、桜の名所という立地もあって、文化・文政年間には大評判となり、錦絵にもよく描かれた。(略)山本屋は今も桜餅の老舗として有名。現在では、小麦粉生地を薄くのばして焼いたものに餡をはさみ、一個につき三枚の桜葉を使っている。(略)江戸で桜餅が流行すると、桜餅は各地で真似して作られるようになる。といっても、どこでも同じというわけではなく、次第に関東は小麦粉生地、関西は道明寺生地が主流になったようだ。すっきりした感じの関東風に対し、米の粒が見える関西の道明寺生地は、どこかはんなりした趣が漂う。(略)」

事典『和菓子の世界』(岩波書店)中山圭子氏著より「桜餅」から